つけもの50章

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漬物に関する
つけもの50章
01.
漬け物の定義。塩・ぬか・酒粕・しょうゆ・酢・みそなどの副材料を用いて、野菜・果実・魚介・肉・卵などを醗酵させたり、味をなじませたものが漬物と称される。
02.
漬け物は、自然発生的に出来たと思われる。野菜や魚などに塩を加え、保存している間に醗酵すれば漬け物になるからである。
03.
漬け物は野菜を保存する目的で塩蔵したことに始まり8世紀以前に既にあったと言われている。記録として漬け物がでてくるのは、大和時代に属する景行天皇の時代で、塩漬けによる食品の保存が行われていたことが知られている。
04.
奈良時代、寺院の僧侶の食物はナス・ウリ・モモなどの野菜や果実を塩で漬けたものであった。
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平安時代になると、重要な副食として扱われるようになり、『延喜式』によると、ワラビ・ナス・ニラ・ウリなどを塩漬けにし、秋にはナス・ショウガ・ダイズ・モモ・カキ・ナシなどを、塩・酒粕・もろみ・酒・みそに漬けていたことが記されている。当時はこれらを漬け物とか漬け菜と呼んでいた。
06.
起源はすしと同じ。現在、漬け物と言えば野菜が主であるが、これは仏教伝来、肉や魚を避ける風潮が強まって以降のこと。それ以前は、肉・魚・野菜など、何でも漬け物にして貯蔵していた。現在の「すし」は魚の漬け物で、魚を米コウジに漬け込み発酵させたものに由来すると言われている。
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鎌倉時代から室町時代にかけては、茶の湯や聞香の発達にともない漬け物は大きく発展した。
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聞香とは、各種の香をたいてそのにおいをかぎわける遊びで、室町時代に盛んに行われた。そのとき、嗅覚の疲れをなおすため漬け大根が用いられた。そこから香の物という言葉が生まれたという説もある。
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「香の物」「香々」という呼び名が定着したのは、鎌倉・室町時代であった。しかし当時は、みそ漬けに限ってこの呼び名があったようである。
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それは、みそのことを「香」と呼んでいたからである。みそは薫りが高いのでこの呼び名があったが、そもそものいわれは、奈良時代、百済からみ名香(みそのこと)が献じられたのにちなんで香の字が用いられたとも言われる。
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また、漬け物は、茶の湯でも盛んに賞味されるようになった。その理由は、食後の口直しとしての効果があったからである。
12.
江戸時代になると野菜の種類も増え、単に野菜の貯蔵のみを目的とする域から一歩向上して、当座漬け、一夜漬けなどの方法も研究されはじめた。
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香の物を「しんこ」と呼ぶようになったのは、古漬けより当座漬けを好むようになってから、新しい香の物、すなわち新香といったのがなまったものであろう。
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このように多くの漬け物が工夫され、作られるようになったのは日本の風土が漬け物を作る条件に適していたからであろう。
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販売用の漬け物の歴史をみると、江戸時代の夷講の市で売られた「べったら漬」の他に、京都の山崎亀吉が慶応元年、大黒屋という店で売り出した「千枚漬け」などがよく知られている。
16.
高級漬物に位置づけられた福神漬は、東京上野池の端に香煎屋を営んでいた酒悦の野田清右衛門が明治19年に製造した。これを自分で売って歩いたのが販売の始まりとされている。
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非常に種類の多い漬け物。漬け物を作る際に使用する副材料による分類方法が一般的。
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代表的なものは、塩漬け、ぬか漬け、ぬかみそ漬け、粕漬け、酢漬け、コウジ漬け、みそ漬け、しょうゆ漬け、カラシ漬けなど。
19.
タクアン漬けは、江戸品川の東海寺を開いた沢庵和尚が始めたという説と、沢庵和尚の墓の石がタクアン漬けの重石に似ているからという説があるが、確かではない。
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漬け物を貯蔵期間により分類すると、即席漬け・一夜漬け・当座漬け・保存漬けに分けることが出来る。
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即席漬けは早漬けとも言われる。1~2日のうちに出来るもののこと。これは生の材料に近い感覚を楽しめる。半日くらい漬けたものを一夜漬けと言う。
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当座漬けは2~3日から1~2週間でできるもののこと。
23.
保存漬けは、1~2カ月から5~6年貯蔵するもので、日数を経るほど味がよくなる。この方法で大切なことは、材料に対する塩の割合である。塩はある程度以上濃度が高くないと防腐作用が働かない。そのため、保存期間が長いものや、ゆっくり発酵させるものは塩分濃度を高めることが必要である。
24.
漬け物を漬けるとき、多くの場合食塩が大量に用いられる。これは雑菌の繁殖防止が大きな目的である。
25.
一般に温度が高いと微生物類は繁殖しやすい。そこで、気温が高くなるにしたがって食塩濃度を高くする。こうして雑菌の繁殖を抑える必要がある。
26.
漬け物は塩蔵中に起こる発酵という現象の結果出来上がる。この現象を起こすためには適切な温度と湿度が必要とされる。
27.
発酵は微生物を繁殖させ、その中に含まれている酵素類の働きを利用するものである。
28.
発酵によって漬け物材料あるいは漬け物床の成分は科学的に変化する。その結果、旨味やよい香りが出る。
29.
この際、発酵が早く進みすぎると、味はあまりよくならない。発酵の条件としては、ゆっくりと進行することがよい味を出す上で効果がある。そのためには出来るだけ温度を低くする。冬期によい漬け物ができるのはこのためである。
30.
微生物による発酵を利用するものと、しないものがある。
31.
発酵によるものにタクアン漬け・ぬかみそ漬け・塩漬けなどがある。これらの漬け物は、材料をぬか床や塩水に漬けているうちに、乳酸菌など微生物の増殖により発酵が起こり、それにともなって複雑な化学変化を起こし風味が出てくる。
32.
発酵しないものに一夜漬けなどの塩漬け・酢漬け・しょうゆ漬け・粕漬け・みりん漬け・みそ漬けなどがある。これらは副材料の成分や風味が材料に浸透するのみで発酵作用はしない。
33.
漬け物で重視される微生物は乳酸菌である。乳酸菌は繁殖しながら糖分を分解して乳酸を作る。これを乳酸発酵と呼び、漬け物のほかヨーグルトなどの乳酸飲料・バター・チーズなどの製造にも広く使われている。
34.
乳酸、酢酸、クエン酸等の有機酸は漬け物に多く含まれていて、これらの酸が消化器内での酵素の働きを助け、腸内細菌の活動を盛んにし、異常発酵を防ぐ整腸作用があり殺菌作用もある。
35.
また酸は体内にできた疲労素を分解する役目をするから、疲労回復を早め動脈硬化や高血圧の予防にもなり、太り過ぎや美容にもよい。
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漬け物は繊維が多く、腸のゼン動運動を刺激し便通をよくし、便秘を防ぐ効果がある。
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また、漬け物に含まれる乳酸菌は、腸内で異常発酵のもととなる細菌の増殖を抑える効能をもつとともに、ビタミンB2・B6・B12・カリウムなどを生産する。
38.
肉体労働の少ない現在の日本人(特に中高年の人)の生活では、食塩のとりすぎは動脈硬化や脳卒中の原因になると言われている。そこでつけもの業界では近年急速に低塩化漬け物が開発されここ数年のうちに従来の塩分の1/2~1/3の低塩となっている。
39.
漬け物と重石は切っても切れないほどの関係。乳酸菌の繁殖を助け、雑菌とくにカビなどの繁殖を妨げるためには、重石をし、出てきた食塩に浸し、空気に触れないようにすることが必要である。
40.
漬け物が食欲を増進する作用の1つに、色彩の美しさがある。そのために、漬け物の色を自然に保ったり、あるいは発色や色止め、着色によって美しくみせる方法が古来より研究されてきた。
41.
漬け物材料の植物の色素には、クロロフィル・アントシアン・カロチノイド・フラボノイド・ポリフェノールなどがある。この中で特に漬け物と関係があるのは、クロロフィル・アントシアン・カロチノイドである。
42.
古くから日本人の食文化の中心的存在でありつづけた漬け物だけに、漬け物にまつわることわざも多い。
43.
漬け物どきは嫁逃げる。大量に漬け物を漬ける農家は、漬け物を漬ける季節になると目の回るほどの忙しさで、嫁は逃げ出したくなるほどである。非常に忙しいときのたとえ。
44.
色で迷わす浅漬けナス。漬け桶から出したての浅漬けナスは鮮やかで美しい紺色をしている。その色にさそわれ、思わず食欲も出ようというものである。女性の美しい容姿に誘われて好きになってしまうことのたとえ。
45.
ぬかみそ女房。家事に追われて、ぬかみその臭いがしみついているような感じのする女房。夫が自分の女房を謙遜するときに用いる。
46.
名古屋市郊外、愛知県海部郡甚目町の新川のほとりにある萱津神社は、日本唯一の漬け物の神社で知られている。毎年8月21日に漬け物の祭礼が行われているが、この日は、全国各地から漬け物業者が集まるという。
47.
群馬と言えば梅というくらい、梅の生産が盛んで生産高は全国で2位となっている。そのため、梅を素材にした漬け物が数多く、特にカリカリ梅は有名。
48.
群馬県の漬け物出荷額は、全国第4位である。
49.
これは野菜が豊富にあるということはもちろんであるが、名物空っ風などと言われるように強い北風が吹き、乾燥しているため、塩漬け発酵形態の漬け物を作るのに適しているからである。
50.
日本人の85%は漬け物を毎日食べているという調査結果がある。これに週2~3回食べる人と月に数回食べる人を加えると98%。まさに日本人にとって漬け物はなくてはならないものだと言ってもいいだろう。
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